乳腺とは
乳腺(にゅうせん)は、胸の皮膚のすぐ下にある組織で、母乳をつくる「乳腺小葉」と、それを乳頭へ運ぶ「乳管」、さらにそれらを支える脂肪や結合組織からできています。乳腺は女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の影響を強く受けており、思春期、妊娠・出産、閉経などのたびに変化します。
乳がんとは
乳がんは、乳腺の細胞が異常に増えて腫瘍をつくる病気です。日本では女性のがんの中で最も多く、年間約9万人が新たに診断されています。主に40〜50代の女性に多いですが、若い世代や男性にも起こることがあります。
乳がんには、乳管内にとどまる「非浸潤がん」と、周囲に広がる「浸潤がん」があり、非浸潤がんの段階で見つかれば治癒が十分に期待できます。
主な原因・リスク
乳がんの発症には女性ホルモンの影響が深く関係しています。初潮が早い、閉経が遅い、出産経験がない、授乳経験が少ないなど、エストロゲンにさらされる期間が長いほどリスクが上がります。
また、家族に乳がんや卵巣がんの経験者がいる場合(遺伝性乳がん:BRCA1/2遺伝子変異など)、肥満、飲酒、喫煙、過度なストレスも関係するとされています。
主な症状

初期の乳がんはほとんど症状がありませんが、多くは「しこり」で気づかれます。そのほか、乳頭からの分泌、皮膚のへこみや赤み、乳頭の陥没などの変化が見られることがあります。痛みがないことも多いため、自己検診と定期的な検診が大切です。
診断方法
乳がんの検査には、マンモグラフィ(乳房X線撮影)、超音波検査、MRIなどが使われます。異常が見つかった場合には、細い針で細胞や組織を採取して病理検査を行い、がんの性質を確認します。
また、治療方針を決めるうえで、「ホルモン受容体」や「HER2タンパク」の有無を調べます。これにより、薬の効果が期待できるタイプかどうかを判断します。
治療判断に使われる分類と治療方針
乳がんの治療を決める際には、TNM分類を使います。
Tは腫瘍がどのくらいの大きさでどこまで広がっているか、Nはリンパ節に転移があるか、Mは遠くの臓器への転移があるかを表します。この組み合わせでステージI〜IVに分けられます。
ステージIは、がんが乳房内にとどまっている早期がんです。この段階では、手術(乳房部分切除または全摘)が中心で、部分切除後には放射線治療を行うことが一般的です。ホルモン受容体が陽性の場合はホルモン療法を追加します。早期発見できれば治癒が十分に期待できます。
ステージIIは、がんがやや大きくなったり、わずかにリンパ節転移を伴う段階です。基本は手術(部分切除または全摘)を行い、必要に応じて術後に抗がん剤治療やホルモン療法、分子標的薬(トラスツズマブなど)を併用します。
また、手術の前に抗がん剤を投与してがんを小さくする「術前化学療法」が選択されることもあります。
ステージIIIは、がんがさらに大きく、複数のリンパ節転移や皮膚・胸壁への浸潤を伴う段階です。この場合は、手術単独ではなく、化学療法、ホルモン療法、分子標的薬、放射線治療などを組み合わせた集学的治療が行われます。術前化学療法で腫瘍を小さくした後に手術を行うケースが多く、再発予防のため術後も薬物治療を継続します。
ステージIVになると、すでに骨や肺、肝臓など遠くの臓器に転移している段階です。この場合は手術での根治は難しく、薬物療法(抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬、免疫療法など)が中心となります。がんの進行を抑え、症状を和らげながら生活の質を保つことを目的とします。近年は新しい薬の登場により、長期に安定した経過を保てる方も増えています。
予防・早期発見

乳がんは早く見つければ治る可能性が高いがんです。40歳以上の女性には2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。若い方では超音波検査も有効です。自己触診に加え、定期的に専門医による検診を受けることが大切です。
また、バランスの取れた食生活、適度な運動、禁煙・節酒を心がけることで、乳がんのリスクを減らすことができます。家族に乳がんや卵巣がんのある方は、遺伝カウンセリングを受けてみるのもおすすめです。
参考文献
- 日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン 2022年版』
- 国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp
- NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®): Breast Cancer, Version 2024
- American Cancer Society: Breast Cancer Facts & Figures 2023–2024



















