リンパ系とは
リンパ系は、体の中で免疫を担う重要な仕組みのひとつです。リンパ液が流れる「リンパ管」と、免疫細胞が集まる「リンパ節」、そして脾臓や骨髄などの臓器から構成されています。
体内に侵入した細菌やウイルスを排除し、体を守る役割を持っています。
悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞ががん化して異常に増える病気です。血液のがんの一種で、白血病と同じく「造血器腫瘍」に分類されます。
リンパ節が腫れるタイプ(節性リンパ腫)と、胃・腸・肺・皮膚などリンパ節以外の臓器にできるタイプ(節外リンパ腫)があります。
日本では年間およそ3万人が新たに診断され、近年やや増加傾向にあります。発症年齢は幅広く、男女差はあまりありません。
主な原因・リスク
明確な原因はまだ完全には分かっていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
- ウイルス感染(EBウイルス、HTLV-1、H. pyloriなど)
- 免疫力の低下(自己免疫疾患、臓器移植後、長期の免疫抑制など)
- 遺伝的要因や加齢
また、放射線や化学物質への長期的な曝露がリスクを高める場合もあります。
主な症状

代表的な症状は、首や脇の下、足の付け根のリンパ節の腫れです。多くは痛みを伴いません。
このほか、発熱、体重減少、寝汗、倦怠感などの「B症状」と呼ばれる全身症状がみられることがあります。
病気が進むと、腸閉塞、胸の圧迫感、咳、肝脾腫(肝臓・脾臓の腫れ)など、腫瘍のある部位に応じた症状が出ることもあります。
診断方法
まずは血液検査で炎症反応や腫瘍マーカー(LDH、可溶性IL-2受容体など)を確認します。
確定診断には、腫れたリンパ節や腫瘍の一部を切除して顕微鏡で調べる病理組織検査が不可欠です。
さらに、CT・PET検査で病変の広がりを調べ、骨髄検査で骨髄への浸潤の有無を確認します。
これらの結果をもとに「アナーバー分類(Ann Arbor分類)」で病期を決定します。
治療判断に使われる分類と治療方針
悪性リンパ腫の治療は、TNM分類ではなくアナーバー分類を用いて病期(ステージI〜IV)を判定します。
ステージは、病変の数と広がり、横隔膜をまたぐかどうかで分類されます。
ステージI
ステージIは、がんが1か所のリンパ節領域、または1つの臓器にとどまっている段階です。
この場合は、抗がん剤治療(CHOP療法など)や放射線治療が行われます。
ステージII
ステージIIは、複数のリンパ節に広がっているが、まだ横隔膜の片側に限られている段階です。
治療は抗がん剤治療(R-CHOP療法など)が中心で、必要に応じて放射線治療を併用します。
ステージIII
ステージIIIは、病変が横隔膜をまたいで広がっている段階です。
抗がん剤治療+抗体療法(リツキシマブなど)が標準治療で、再発を防ぐための維持療法が検討されることもあります。
ステージIV
ステージIVは、骨髄や肝臓など全身に病変が及ぶ段階です。
この場合も多剤併用化学療法+分子標的治療や免疫療法が行われます。
再発例では、自家造血幹細胞移植やCAR-T細胞療法などの高度治療が検討されます。
予防・早期発見
悪性リンパ腫を確実に予防する方法はありませんが、ウイルス感染の予防や免疫力の維持が大切です。
疲労が続く、リンパ節の腫れが長く引かない、発熱が続くなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
早期に診断し、治療を開始することで多くの方が寛解(がんが見えなくなる状態)を得ることができます。
参考文献
・日本血液学会『造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版』
・国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp
・NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®): B-cell and T-cell Lymphomas, Version 2024
・American Cancer Society: Non-Hodgkin and Hodgkin Lymphoma 2023