症例概要
- 年齢 75歳
- 性別 男性
- 腫瘍径31ミリ child-pugh A T2N0M0 stageⅡ
- 腫瘍は、門脈から2ミリ、肝静脈から数ミリで血管に囲まれた状態
- 肝硬変あり(肝臓は小さくなっているが、肝予備能は保持できている)
- 根治を目指すなら、腫瘍及び肝切除手術が必要。だたし、血管が近いことがリスク。
手術後の社会復帰への懸念あり。 - 本人は、外科的な治療よりも、TACE(塞栓療法)+定位放射線療法が第一希望。
ご相談の経緯とご提案
相談に来られたのは、患者様の娘さんでした。看護師をされている方で、保険診療にも、自由診療にも大変詳しい方でした。この度、上記にて、今後の治療方針に迷っておられました。
手術をする場合は、今から2ヶ月後。体重を10kg減らすことが条件とのことでした。
現実問題として、2ヶ月で10kg痩せるのは相当難しいでしょう。また、急な体重減少は、体力低下も伴います。
腫瘍の増大スピードは緩徐とのことでしたが、そうはいっても手術までの2ヶ月間が無治療になることを、ご本人も、ご家族も心配されていました。
手術が現実的ではないとして、今回選択されたのは、TACE(塞栓療法)+定位放射線療法でした。これは、腫瘍を栄養しているメインの血管を詰めることで、腫瘍への血流をストップさせ、壊死させるものです。ただ、TACEだけで完全に腫瘍を死滅させることは難しく、放射線を組み合わせます。この治療の場合は、今から1ヶ月後に治療可能とのことでした。ただ、どうしても手術と比べると、完全に腫瘍を取り除くことが難しいのが、心配点です。
今回、我々ができることとして、先行的な光免疫療法の併用を提案させていただきました。
理由としてはいくつかあります。
まず、主要血管を詰めてしまうと、がんへの血流が減るため、あとで光免疫療法をしようとしても、薬剤ががんに届きにくく、治療効果が期待されにくくなること。そのため、光免疫療法をするのであれば、塞栓前がベストということになります。
次に、先行的に光免疫療法をしておくと、がんが弱るため、TACEや放射線療法の治療効果が高まること。
裏付けとして、オランダ、ドイツ、フランス、イタリアなどで、すでに採用されている治療法であり、欧州肝胆膵外科学会では、研究的治療から現実的オプションへと移行中であることがあげられます。
副作用についても、光免疫療法には特段目立ったものがないため、併用する保険診療の邪魔をするものではないです。
こういった理由から、光免疫療法の併用を勧めさせていただきました。
患者様は九州の方であり、続けて来院するのが難しいかもしれないとのことでしたが、ご家族で相談され、また連絡をしますとのことでした。
治療に繋がらなかったとしても、選択肢の一つをご提案させていただけたことを嬉しく思います。ご連絡をお待ちしています。